甲状腺
ここでは北播磨総合医療センターで甲状腺の治療をしていて、患者様によく質問されたことをQandAでまとめてみました。
目次
⑪甲状腺が大きいと人から言われるのですが、どうしたらいいですか?
①甲状腺中毒症(主にバセドー病)はどのようなものですか?
甲状腺ホルモンが血中に過剰になる病気です。甲状腺ホルモンが過剰になると全身の新陳代謝が活発になり、頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加をきたします。また甲状腺が腫れる、眼球が突出するなどの変化も現れます。
甲状腺機能中毒症は①甲状腺機能亢進症 と②破壊性甲状腺中毒症に大きくわけられ、①は主にバセドー病、②は主に無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎が含まれます。
頻度では、バセドー病が約80%、無痛性甲状腺炎が約10%、亜急性甲状腺が約10%となっているので、甲状腺中毒症≒バセドー病と考えられている方が多いと思われます。
よって、ここではバセドー病の検査、治療について述べます。
②バセドー病はどうやって診断するの?
まずは①に記載したような症状が一番大切です。
次に、血液検査で甲状腺機能(fT3, fT4, TSH)の評価をしたり、抗TSH受容体抗体(TRAb)や甲状腺刺激抗体(TSAb)の評価をすることでおおむね診断できます。抗TSH受容体抗体(TRAb)や甲状腺刺激抗体(TSAb)の検査結果は採血当日にはでず、3日程度かかりますのでご注意ください。血液検査の結果を待っている間、甲状腺エコーを行い、甲状腺が腫れていないかどうか、甲状腺の内部で血流が増えていないかどうかの評価を行います。
ここでおおむね と記載しましたが、確実にバセドー病と診断するためには、甲状腺シンチグラフィーという特殊な検査を行う必要があり、近隣では北播磨総合医療センターで行っています。
甲状腺シンチグラフィーの検査はお金も時間もかかる検査ですので、実際の医療現場ではよほどバセドー病と診断していいのかどうか悩む場合を除いて、頻繁には行いません。
③バセドー病の治療はどうするの?
☞①飲み薬(抗甲状腺薬) ②放射性ヨウ素治療 ③手術 があります。
各々のメリット、デメリットを一覧にまとめました。
治療方法 | メリット | デメリット |
飲み薬(抗甲状腺薬) |
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放射性ヨウ素治療 |
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手術 |
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どの治療も一長一短あるので、どれが優れているとも言えず、どの治療を選んでもおおむね95%以上の患者様が満足しておられます。
患者様ご自身の価値観にあわせ、十分相談した上で治療法を決めることができます。
飲み薬であれば当院で十分に対応できますが、放射性ヨウ素治療や手術になると、近隣では神戸元町にある隈病院が私はよいと考えており、紹介させていただくことが可能です。
④バセドー病の薬はやめられますか?
2年間の飲み薬で治るかどうか が一つの目安になります。
約半数の患者様は1~2年の服用で完治しますが、何十年飲んでも完治しない場合もあります。
よって飲み薬を2年以上続けてもバセドー病が完治しない場合は、そのまま飲み薬を続けるか(完治はしないが、飲み続けて甲状腺機能が落ち着くのであれば、それはそれでよいという考え)、放射性ヨウ素治療や手術に移行するかを考える必要があります。
なお、高齢者よりも若年者の方が完治しにくいという特徴があります。
タバコやストレスはバセドー病を悪化させるので、バセドー病の治療期間中はタバコやストレスを避けましょう。
⑤バセドー病で、生活面で気をつけることはありますか?
ポイントとしては以下の7点です。
- 薬をしっかりと飲むこと
- 規則的な生活を行い、睡眠を十分にとる
- 甲状腺の数値が安定しない間は、激しい運動はさける
- 甲状腺の数値が安定しない間は、手術、抜歯、身体に負担のかかる検査は避ける(医師に相談してください)
- ストレスを避ける、うまくストレスをコントロールする
- 禁煙する
- 日常生活で、ヨウ素摂取は特に制限する必要はありませんので、海藻類も食べて大丈夫です
⑥甲状腺機能低下症(主に橋本病)はどのようなものですか?
甲状腺機能低下症(主に橋本病)は、本来自分の体を守るはずの免疫が自分自身の甲状腺に反応して起こる病気です。自己免疫により甲状腺に慢性の炎症がおこり、甲状腺が腫れてきます。甲状腺に自己免疫がおこる原因は、体質的な要因が大きいです。
甲状腺機能低下症の症状は甲状腺が腫れる、前頸部の不快感や圧迫感、無気力、疲れやすい、うつっぽくなる、むくみ、寒がり、体重増加、動作が緩慢になる、記憶力低下、便秘、脈が遅くなる、などがみられます。
⑦甲状腺機能低下症(主に橋本病)はどうやって診断するの?
びまん性甲状腺腫大(甲状腺が全体的にはれぼったい)があり、血液検査で抗甲状腺マイクロゾーム抗体(TPO抗体)や抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)が陽性であれば、橋本病と診断されます。
ただし、診断されたからといって、治療が全員に必要なわけではなく、実際に治療が必要なほどの甲状腺機能低下症をきたすのは10%程度です。
服用している薬剤により甲状腺機能低下症(主に橋本病)を発症する場合があり、例えば不整脈に使うアミオダロンや、躁うつ病に使うリチウム、抗てんかん薬や抗うつ薬でも甲状腺機能低下症が起こりえます。
⑧甲状腺機能低下症の治療はどうするの?
基本的には飲み薬(チラージン®)での治療を行います。
このお薬は就寝前に飲むことで吸収がよいので、50μg製剤を就寝前に半錠~3錠程度服用することになります。
およそ2~4週間毎に血液検査とチラージン®の量の調整を行い、甲状腺機能が安定すればそのまま生涯にわたり内服を継続する場合が多いです。
甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の違い まとめ
甲状腺中毒症 | 甲状腺機能低下症 | |
頻脈(動悸) | ⇔ | 徐脈 |
暑がり | ⇔ | 寒がり |
皮膚が湿潤(発汗が多い) | ⇔ | 皮膚乾燥 |
活動的、振戦(ふるえ)がある | ⇔ | 言語や動作が緩慢 |
躁状態(ハイな状態)、イライラしやすい | ⇔ | 無気力、うつっぽい、記憶力低下 |
食べても体重が減る | ⇔ | 体重が増える、むくむ |
下痢気味 | ⇔ | 便秘気味 |
※倦怠感、疲れやすい、脱毛は共通してみられる症状
⑨甲状腺機能異常でも妊娠には問題ありませんか?
未治療のバセドー病や甲状腺機能低下症は不妊症や妊娠合併症、出産異常や胎児異常の原因となります。
不妊症、不育症の女性、甲状腺疾患の既往がある場合や、家族に甲状腺疾患をお持ちの方がいる場合、積極的に血液検査を行い、甲状腺が異常でないかどうかをスクリーニングしたほうがよいと考えます。
適切な治療さえすれば妊娠合併症は予防可能ですし、甲状腺の状態を落ち着かせていれば妊娠継続は可能です。
ただし、妊娠中は甲状腺のバランスが崩れやすくなっており、こまめにお薬の量や種類を調整する必要がありますので、内分泌専門医か、甲状腺専門医に診察してもらうのがよいと考えます。
なお、妊娠10週目前後(8~13週)に、約2%の妊婦に一過性の甲状腺機能亢進症をきたす場合がありますが、基本的には経過観察で問題ありません。
⑩甲状腺の治療をしていても授乳には問題ありませんか?
基本的には問題ありませんが、お薬の種類、量の制約はあります。
内分泌専門医の腕の見せ所ですので、一度ご相談ください。
⑪甲状腺が大きいと人から言われるのですが、どうしたらいいですか?
単純性甲状腺腫という病態があり、甲状腺が全体的に腫大しているが、血液検査や甲状腺エコー、場合によっては甲状腺を穿刺して癌がないかをチェックをしても異常がない場合にこの診断名がつきます。
思春期や妊娠中など、比較的若いときに甲状腺が腫れやすいので、審美的にも気になるところではあります。
この病気に何故かかるのかについては、今のところ分かっていません。しかし、悪い病気ではなく、癌になったりしませんから心配はいりません。この病気を長期間観察(5~14 年)した日本人の研究から分かったことは、108 人中 8 人で何らかの甲状腺の病気が新たに出現し、多くはバセドー病でした。
ですから、単純性甲状腺腫といわれたら、その後バセドー病を発症しないか経過をみていくことは大切です。
あまりに甲状腺の大きさが気になる場合は、チラージン®というお薬を飲んで、甲状腺が小さくならないか経過をみる場合もあります。甲状腺ホルモン剤が効かなければ、手術や放射性ヨウ素治療をすることもありますが稀です。
■参考文献
甲状腺疾患診療パーフェクトガイド 診断と治療社
甲状腺疾患のクリニカルクエスチョン 中外医学社
内分泌代謝科専門医研修ガイドブック