認知症に家族はどう向き合うか
大事なことは
②できることは本人にしてもらう(認知症=なにもできない と思わない)
③根本原因を考える(たとえ認知症でも、行動の背景には必ず理由があります)
になります。
それぞれ詳しく説明します。
①本人の尊厳を守る
つい30〜40年前までは、 認知症 (当時は痴呆といいました) についての知識も社会全体に乏しく、 一部では 「ボケてしまったら何もわからなくなる」 とばかりに認知症の方を非人間的に扱っていた時代がありました。しかし、 現在ではたとえ認知症になっても、 適切な援助を受けながら社会生活を継続して送る権利が保障されています。
認知症の方は、 病気になる前までは社会の一員として活躍し、 また家庭を支え、 子供を養育されてきた方々です。「あれができなくなった」 「これがわからなくなった」 と、 認知症の症状にばかり目をやるのではなく、 その方の変わらぬ本質をしっかり見つめて、 その 時々に必要な手助けを、 医療・介護・福祉・地域・家庭など、すべての場で連携して行うことが大切です。
認知症の方を子供扱いせず、介護する周りの方が、 「もしご自分が認知症になった時にこんなことをしてほしい」と思えるようなケアをしていければ、素晴らしいことと思います。
②できることはご本人に
介護されている方は、つい親切心からご本人に関わるすべてのことをやってしまいがちです。
しかし、もしご自分なら、と考えてみてください。
何もかも人に助けてもらって、自分が人のために役に立つことのない生活、これはある意味まるで「生きがい」のない生活だと思います。
認知症の診断を受けても、まだまだご本人にできることはたくさんあります。できることはどんどんご本人にやっていただいてください。
「昔取った杵柄」といいますが、昔覚えたこと、体で覚えたことは、なかなか忘れないものです。それぞれの認知症の特徴をよく理解して、苦手なことは手助けし、得意なことは積極的にご本人にお任せする。それによって、ご本人の自尊心が保たれますし、いきいきした生活を営むことにつながります。
社会や家庭のなかで今も役割を果たせている、と自信をもっておられる方は、認知症が進んでも困った症状(BPSD)を起こしにくいものです。
③根本原因を考える
認知症の方は、時に徘徊や妄想などの症状(BPSD)を示されます。周りにいる方々は、ついその目の前の症状に気をとられて
- 徘徊する→家から出られないよう鍵をかけよう
- 妄想がある→適当にごまかして忘れさせよう
などといったその場その場の対応をとりがちです。
もちろん、こうした対応がすべて悪いわけではありません。 特に危険な行為の場合、緊急に止めなくてはなりませんから、手段を選んでいられないのが正直なところです。 ただ、認知症の方がさまざまな症状を示されるのには、必ずそれなりの理由があります。その根本原因が解消されない限り、また似たような症状が出て、再び対応しなくてはならなくなる・・・と「いたちごっこ」に陥ってしまうおそれがあるのです。
困った症状(BPSD)の原因として考えられるのは
- 心理的な要素(不安は最も重要、その他、さびしさ、怒り など)
- 周囲の働きかけの問題(いきなり手をつかんだ、大声で呼びかけた、行く手を遮った など)
- 体の不調(便秘、脱水、空腹、痛み、かゆみ、運動不足、発熱 など)
- 薬の影響
- 環境(騒々しい、まぶしい、なじみがない、臭いがする など)
- 以前の習慣(毎朝会社へ行っていた、農家で畑を耕していた など)
などだといわれています。
ご家族だけでこの原因を見きわめるのは難しいかもしれませんが、日ごろご本人と接している介護スタッフ・ケアマネジャー・医師などと十分話し合って、知恵を出し合い、根本的な解決を図っていきましょう。
④介護する方も休息を
認知症の方をご家族で介護するということは、言葉では言い尽くせないくらい大変なことです。
介護だけでも大変なうえ、認知症になった方がそれまでに担っていた仕事(たとえばお店の経営・家計の管理・家事)も引き受けなければなりませんし、ご自分の仕事もこれまで通りこなしていかなければなりません。
ゆっくりご飯を味わって食べたり、お風呂にのんびりつかったりすることすら難しくなるでしょうし、二人きりで暮らしておられる場合、テレビのニュースを見て一言二言話し合う・・・・・・といった会話の喜びさえ奪われてしまいます。
そのままでいれば、きっと体や心が悲鳴をあげてしまうに違いありません。
積極的に休息をとるよう心がけてください。
ショートステイなど介護保険のサービスを利用して介護する方が定期的に休養する時間をとるのはよい方法です。
自治体のサービスも、ボランティアも、助けになると思います。
「楽をすると後が苦しいから」とか、「本人が嫌がるから」とか言わずに、とにかく介護するご家族の体と心の健康に留意してください。
それから介護を助けてくれる人(介護介助者)をみつけましょう。もしもの時に代わってもらえる介護介助者がいると思うだけで、介護者は精神的に楽になります。
介護は、認知症のご本人とご家族だけが倒れるまでつきすすむ一本道ではありません。介護者が元気で穏やかな気持ちでいてこそ、よい介護につながるのです。 困った時には担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに、ためらわずSOSを出してください。
とくに、患者さんのことを親身に思い、ご家族様の要望や困った状態に迅速に対応してくれる優秀なケアマネージャーとの出会いが非常に重要になります。
⑤できるだけにこやかに、穏やかに、そして受容する
「叱られた」「馬鹿にされた」などの悪い記憶は、細かな内容は覚えていなくても、感情として残るものです。介護する方との人間関係が壊れてしまうと、後々まで対応が難しくなってしまいます。やりとりは難しいところもあるでしょうが、できるだけ穏やかに、にこやかに言葉をかけて、よい気分を残してあげてください。
また中期以降のアルツハイマー型認知症の方はおいしいものを食べても、楽しいことをしても、それを長く覚えておくことができなくなってきます。せっかく旅行に行っても、一日たつと行ったこと自体を忘れてしまいますので、周りの方ががっかりされることもあります。まさに「今この瞬間を生きている」といった状態です。
ただ、きちんとした記憶は残らなくても、楽しかったという幸福感は残ると思われます。介護する方は、覚えておいてもらえることをあまり期待せず、その時その時を気持ちよく過ごしてもらえるように考えを切り替えてみてください。