更年期
目次
閉経と更年期症状、更年期障害の違いは?
閉経
卵巣の活動性が次第に消失し、ついに月経が永久に停止した状態をいいます。月経が来ない状態が12か月以上続いた時に、1年前を振り返って閉経としています。
日本人の平均閉経年齢は約50歳ですが、個人差が大きく、早い人では40歳台前半、遅い人では50歳台後半に閉経を迎えます。
更年期
閉経前の5年間と閉経後の5年間とを併せた10年間を「更年期」といいます。
更年期に現れるさまざまな症状の中で他の病気に伴わないものを「更年期症状」といい、その中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」と言います。
更年期女性の約50~80%が更年期症状を訴えるといわれており、わが国では400万人が治療対象とされています。
更年期障害になる理由は?
女性ホルモンには卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2種類あり、左右の卵巣から分泌されます。
更年期に関係するのはおもに卵胞ホルモン(エストロゲン)です。
更年期障害の最も大きな原因は女性ホルモン(エストロゲン)が大きくゆらぎながら低下していくことです。
しかし更年期を迎える女性の全員が全員、更年期障害をきたすわけではなく、女性ホルモンの低下以外に、対人関係や家族の問題、生来の性格や生育歴などの要因が複合的に関与することで発症すると考えられています。
更年期障害の症状は?
「もしかして更年期に入ったのかも・・」と考えられる、からだからのサインの一つに、月経の乱れがあります。
月経の乱れとは、月経周期がばらばらになる、月経の持続日数が短くなったり長くなったりする、月経量が変化する、などのことです。月経の様子がこれまでと変わってきたと感じるようになったら、ホルモン的にはそろそろ更年期の始まりと思ってよいでしょう。
症状として代表的なものに以下のものがあります。
一説には300以上の症状があるといわれており、この症状があれば更年期障害というような特徴的な症状はないとされています。
しかし、程度の差はあれ、のぼせ、ほてりなどの血管運動神経系の症状は認めます。
精神神経系の症状 | 頭痛、めまい、耳鳴り、もの忘れ、抑うつ感、倦怠感、判断力・集中力の低下 、不眠、不安感 など |
血管運動神経系の症状 | のぼせ、ほてり、発汗、冷え、動悸、息切れ、手足の冷え |
皮膚・分泌系の症状 | 皮膚や粘膜の乾燥、湿疹、発汗、ドライマウス(唾液分泌の低下)、ドライアイ |
消化器系の症状 | 食欲不振、吐き気、便秘、下痢、腹部膨満感 |
運動器官系の症状 | 肩こり、腰痛、関節痛、背部痛、手のこわばり、手足のしびれ |
泌尿器・生殖器系の症状 | 月経異常、頻尿、尿失禁、残尿感、性器下垂感、外陰掻痒症、膣萎縮症状 |
更年期障害の診断は?
更年期障害を診断する上で重要なことは、なんでもかんでも更年期で片付けないことです。
例えば更年期障害と思いこんでいたら、甲状腺機能低下症やうつ病、不安障害であるようなケースもあります。
よく勘違いされていますが、血液検査では更年期は診断できません(一応の目安としてFSH>40、エストラジオール<20という値はある)。
更年期に相当する期間内に更年期症状があって、その上で他の疾患を除外して、初めて更年期障害と診断できます。
よって、当クリニックでは更年期障害と診断する前に、更年期症状の問診や、女性ホルモンを含む一般的な血液検査 などを行い、正確に診断して治療に結び付けることを心掛けています。
更年期症状の問診には以下の簡易更年期指数が有用ですので、診察の前に記載して持ってきていただけるとスムーズに診察できます。
更年期障害の治療はどうするの?
更年期障害をきたす理由は、女性ホルモン(エストロゲン)低下、身体的因子、心理的因子、社会的因子 が複雑に絡み合っておこります。
よって、どの部分が最も問題であるのか、十分な問診を行って明らかにすることが必要です。その上で生活習慣の改善や心理療法を試み、それでも改善しない症状に対して薬物療法を行います。更年期障害の薬物療法は大きく3つに分けられます。
①ホルモン補充療法(HRT)
最も効果があります。70~80%の方に有効で、2週~4週くらいで効果がでてくると言われています。
詳しい説明
更年期障害の主な原因がエストロゲンの減少にあるため、少量のエストロゲンを補う治療法(ホルモン補充療法:HRT)が行われます。HRTは、ほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗など血管の拡張と放熱に関係する症状に特に有効ですが、その他の症状にも有効であることがわかっています。エストロゲン単独では子宮内膜増殖症のリスクが上昇するため、子宮のある方には黄体ホルモンを併用します(エストロゲン・黄体ホルモン併用療法)。手術で子宮を摘出した方には、黄体ホルモンを併用する必要はありません(エストロゲン単独療法)。
HRTに用いるホルモン剤には飲み薬、貼り薬、塗り薬などいくつかのタイプがあり、またその投与法もさまざまです。
その人に合った最適な治療法を選択していきます。
HRTに関しては、一時乳がんなどのまれな副作用が強調される傾向にありましたが、5年未満の使用であれば問題ないと言われています。
また、更年期の症状を改善させるだけでなく、閉経後骨粗鬆症や脂質異常症の治療および予防にも効果的ですし、動脈硬化・認知症の予防にも有効である可能性がありますし、将来的に大腸がんや直腸がんになるリスクも低下させてくれます。
ホルモン補充療法(HRT)の禁忌
以下のような方はホルモン補充療法は受けられません。
・重度の活動性肝疾患
・現在の乳癌とその既往
・現在の子宮内膜癌、低悪性度子宮内膜間質肉腫
・原因不明の不正性器出血
・妊娠が疑われる場合
・急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往
・心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往
・脳卒中の既往
当院でホルモン補充はできますが、子宮癌や乳癌がないかを近隣の産婦人科や健診で調べていただいてからの受診が安全です。
ホルモン補充療法(HRT)中に注意すること
マイナートラブルとして不正出血、胸のはり、むかつき、体重増加などあります。
特に不正性器出血に関しては、3か月以内に30~50%の患者様に不正性器出血が起こります。
必要な場合、まずは止血剤で対応しますが、出血が続くようであれば、お薬を減らして使用します。
それでも出血が続く場合は、子宮の精査をオススメします。
②漢方薬
更年期で軽度の方の場合は、漢方治療で経過をみることもあります。
更年期女性に対しては、「婦人科三大処方」とも呼ばれる当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸を中心に、さまざまな処方が用いられます。比較的体力が低下しており、冷え症で貧血傾向がある方に対しては当帰芍薬散を、比較的体質虚弱で疲労しやすく、不安・不眠などの精神症状を訴える方に対しては加味逍遥散を、体力中等度以上でのぼせ傾向にあり、下腹部に抵抗・圧痛を訴える方に対しては桂枝茯苓丸を、それぞれ処方します。
③抗うつ薬、心理療法
気分の落ち込み・意欲の低下・イライラ・情緒不安定・不眠などの精神症状が最もつらい症状である場合には、抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬も用います。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの新規抗うつ薬は副作用も少なく、ほてり・発汗など血管の拡張と放熱に関係する症状にも有効であることが知られています。
④プラセンタ
更年期指数(SMI)が65点以上の場合や、SMIが65点未満であっても寝つき、目覚めが悪い場合、疲労感が強い場合には保険診療によるプラセンタ治療(保険適応は45-59歳)が有効です。
ホルモン補充療法や漢方薬による治療との併用も可能です。 当院では保険診療による「更年期障害に対するプラセンタ療法」を行っております。
詳しくはプラセンタのページを参照ください。
更年期障害の薬はいつまで飲むの?
何年治療する という決まりはありません。
症状が軽快してこれば徐々にホルモン補充を減らしていって、それでも更年期症状が悪化しなければさらに減量していく・・というようにホルモン補充の量を調整していきます。
更年期における関節痛について
朝起きると指の関節が痛かったり、こわばるという症状は、
- 関節リウマチ
- 更年期障害(更年期関節症)
の可能性があります。
関節リウマチはリウマチ科が専門ですのでここでは詳細は割愛し(当院でも血液検査でリウマチかどうかはある程度調べることができます)、今回は更年期関節症についてお話したいと思います。
閉経に近づくと、女性ホルモン、特にエストロゲンが急激に低下します。軟骨にはエストロゲンの受容体があるため、エストロゲンが低下すると軟骨が減少し、痛みの原因になります。
関節痛は、更年期症状として少なくとも50%の女性に見られると報告されています。
更年期関節症の特徴は、動かし始めはこわばりや痛みがあり、場合によってはコップを落とされる方もいらっしゃいます。しかし、動かしているうちに次第に痛みが軽快しますので、グーパーグーパーと指を動かすことが有効です。
また、関節リウマチと更年期関節症の大きな違いは、①リウマチは第2関節や指の付け根が痛い。一方で更年期関節痛は第一関節が痛い ②リウマチは治療しないで放っておくとどんどん痛みが増強していくが、更年期関節症は閉経後早期に一番症状が強く、その後数年で徐々に改善していく という点です。
更年期関節痛の治療には以下の選択肢がありますので、ご相談ください。
①ホルモン補充療法(ほてりやイライラなどの更年期症状もあわせて治療できます)
②サプリメント(エクオール)
③痛み止めの飲み薬(アセトアミノフェンやロキソニン)
■参考文献
ホルモン補充療法ガイドライン2017
内分泌代謝科専門医研修ガイドブック
日本産科婦人科学会ホームページ
Climacteric 2016;19:313-315