高血圧
目次
高血圧とは?
心臓が収縮して血液を全身に送り出すときに血管の壁に与える圧力を収縮期血圧(上の血圧)といい、心臓が拡張して次の拍出の準備をしているときに血管の壁に残っている圧力を拡張期血圧(下の血圧)といいます。
診察室で血圧を測定したときの収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合が高血圧とされています。
高血圧はどれくらいの患者さんがなっている?
我が国の高血圧者数は約4,300万人と推定され、40~74歳の2人に1人が高血圧といわれています。
高血圧になる理由は?
日本人の高血圧の85~90%は、原因となる特別な疾患のない「本態性高血圧」です。発症には遺伝的要因と、食生活や運動不足、ストレス、肥満、たばこなどの環境的要因の両方が関係しています。遺伝性要因が6割、生活習慣・環境要因が4割と言われています。
環境要因の中では食塩の過剰摂取が最も大きな問題となっていますが、最近では肥満による高血圧が増えてきています。
原因疾患がある場合は、二次性高血圧といいます。
両親や兄弟、姉妹に高血圧の人がいる場合、高血圧になる可能性はたしかに高いですが、高血圧自体は遺伝するものではなく、血圧が上がりやすい体質の上に高塩分食などの生活習慣が加わって発症します。したがって日頃から生活習慣に注意することで高血圧は予防や治療ができます。
高血圧はなぜ悪いの?
血管は全身に血液を運ぶためのホースの役割をしています。ホースと血管の違いは、血管は弾力性をもっていることです。しかし、血圧が高い状態が続いた場合、血管の壁が傷ついて厚くなり、硬くなって弾力が失われます(動脈硬化を引き起こします)。
日本人の死因を見ると、がんを除けば心臓病や脳卒中など、血管の障害に起因する病気が多数を占めます。高血圧が続き、動脈硬化が進むと脳では脳卒中(脳出血や脳梗塞)を、心臓では狭心症や心筋梗塞を起こします。
高血圧を治療する理由は?本当に治療は必要?
高血圧の治療により、脳卒中や心臓病を予防できることが証明されています。元気で自立した生活を送れる健康寿命を延ばすためにも是非、高血圧をしっかりと治療しましょう。
また、高血圧のほかに肥満、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が加わると、より一層脳卒中や心臓病が発症するリスクが高まりますので、さらにしっかりと治療しましょう。
高血圧の治療はどうするの?
高血圧治療の基本は薬ではなく、生活習慣の改善です。
食事(主に減塩)療法や運動療法の他、減量、節酒、禁煙、ストレス解消も血圧を下げることに有効です。
塩分は1日6g未満、運動はウォーキングや体操、サイクリング、水泳などを1回30~60分以上・週に3回以上、体重はBMIを25kg/m2未満、アルコールは1日あたり男性では20~30ml、女性では10~20mlを目安にしましょう。
これらをすべて行っても血圧が高い場合は、薬による治療を始めます。ただし薬を服用していても、生活習慣の改善を怠ってはいけません。
(参考)アルコール20gの目安
(参考)降圧薬の種類
種類 |
働き |
副作用 |
カルシウム拮抗薬 |
血管を収縮させる原因となるカルシウムイオンが、血管に入るのを防ぐため、血管を拡げる。 |
動悸、頭痛、 ほてり感、浮腫、歯肉肥厚 |
アンジオテンシンⅡ 受容体拮抗薬(ARB) |
血圧を上昇させる働きをもつ物質 (アンジオテンシンⅡ)の作用を抑える。 |
高カリウム血症 |
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬) |
血圧を上昇させる働きをもつ物質 (アンジオテンシンⅡ)の産生を抑える。 |
空咳・高カリウム血症 |
β(ベータ)遮断薬 |
心臓に作用して、心拍数を下げ全身の血圧を下げる。 |
徐脈 |
α(アルファ)遮断薬 |
血管を収縮して血圧を上昇させる交感神経の働きを抑えて、全身の血圧を下げる。 |
起立性低血圧 |
利尿薬 |
体の外へナトリウム(Na)と水分を出やすくして、身体の水分量を減らして血圧を下げる。 |
低カリウム血症 |
高血圧治療をする上で、目標の血圧は?
日本高血圧学会治療ガイドラインでは以下の血圧が目標とされています。
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
75歳未満の成人 脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし) 冠動脈疾患患者 CKD患者(尿蛋白陽性) 糖尿病患者 抗血栓薬服用中 |
<130/80 | <125/75 |
75歳以上の高齢者 脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価) CKD患者(尿蛋白陰性) |
<140/90 | <135/85 |
CKD:chronic kidney disease(慢性腎疾患)
減塩っていうけれど、具体的にどうするの?
高血圧の治療では、1日の塩分摂取量を6g未満に抑えることが推奨されています。
現在、日本人の1日の塩分摂取量は平均して10.1gですので、意識的に塩分を控える必要があります。
まずは下の減塩チェックシートを参考にして、自分の塩分摂取量の評価からしてみましょう。
減塩のコツ
①塩で味付けするのでなく、「だし」のうまみを利用する
②天然食材の酸味を利用する(例えば、トマトやレモンなど)
③できたてを温かいうちに食べる
④香辛料や香味野菜を使う
⑤新鮮な食材や旬の食材を使う
血圧の薬は一生飲まないといけないの?
これはあくまでの私見ですが、多くの患者様が血圧のお薬を一生飲まれているように感じます。
それだけ生活習慣の改善が、言葉でいうほど簡単ではないことの裏返しだと考えます。
一方でしっかりと減塩や運動に取り組まれた患者様が、血圧の薬がなくてもよい血圧になることもしばしば経験します。
また、冬だけ血圧が高い という患者様もある一定数おられ、そのような患者様は冬だけ血圧の薬を飲むようにおすすめしております。
いずれにせよ、患者様一人ひとりの身体にあわせて、不要な血圧の薬は中止するべきでしょうし、本当に必要ならば薬を飲む必要性をしっかりと説明することを心掛けています。
血圧の測定方法は?
家庭血圧は朝と夜の1日2回、座位で測定します。血圧値はその平均値を取ります。
朝であれば排尿後、起床後1時間以内、食事や薬を飲む前、1~2分の安静後 の条件で、夜であれば就寝前に1~2分の安静後 の条件で測定してください。
朝・夜以外にも、職場やその他の活動で血圧が高くなる場合があります。仕事中やストレスの多いときなども血圧を測って、血圧が良好であることを確認してください。ただし、測る時は測定条件を守りましょう。とくに、歩いたりした後ではすぐに血圧を測らず、座って1-2分間の安静を保ってから測るようにしてください。
血圧計は、上腕にカフを巻くタイプを用いてください。手首に巻くタイプは、どうしても値が不正確になりがちなので注意して使ってください。
血圧は低いほどよいの?
血圧は低ければよいというものではありません。血圧が低すぎると、フラフラしたり気分が優れない、朝起きられない、だるい などの症状が現れてきます。
収縮期血圧が100mmHg以下の場合は低血圧という病気であり、日常生活に支障をきたすほど症状が顕著な場合には治療が必要です。
血圧は適正な数値を維持することが必要です。
白衣高血圧、仮面高血圧ってなに?
白衣高血圧
普段、自宅で血圧を測定すると正常値なのに、健診や病院で測ると数値が高くなる人がいます。これは、白衣姿の医師や看護師をみて緊張したり、不安に感じたりして一時的に血圧が上がってしまうもので、「白衣高血圧」と呼ばれます。
「家庭での血圧と、診察室での血圧、どっちを優先するの?」とよく質問を受けますが、ご自身の本当の血圧=ご家庭での血圧と考えていただいてよいです(診察室での血圧は、家庭の血圧に比べればそこまで重要視しなくてもいいです)。
ただ、白衣高血圧といえども、将来本当の高血圧になるリスクは高いので気をつける必要があります。
仮面高血圧
白衣高血圧とは逆に、健診や病院で血圧を測ると正常値なのに、家庭や職場で測ると高い人がいます。
診察室では正常血圧の「仮面」を被っていて高血圧が発見しにくいことから「仮面高血圧」と呼ばれ、治療が必要です。
■参考文献
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン2019
塩分チェックシート監修:社会医療法人製鉄記念八幡病院 理事長 土橋卓也、管理栄養士 増田香織
日本高血圧協会ホームページ(もう少し高血圧を詳しく知りたい方へおすすめです)