不眠症
このページでは不眠症で患者様によく尋ねられる質問をまとめてみました。
目次
・Q1,睡眠薬は一度飲み始めると、一生やめられない? 睡眠薬は癖になる?
・Q2, 体が睡眠薬になれてくると、睡眠薬の量を増やさないと睡眠薬が効かなくなる?
・Q4,寝られないときに、ちょっとならお酒を睡眠薬と一緒に飲んでも大丈夫? 寝るためにお酒を飲んでもいい?
Q1,睡眠薬は一度飲み始めると、一生やめられない? 睡眠薬は癖になる?
☞A, 正しい処方を、指示通りに服用すれば癖にならずにやめられる。
現在の睡眠薬の多くはベンゾジアゼピン系睡眠薬といい、薬理学的には耐性や依存性は来しにくい といわれています。
とはいえ、睡眠薬依存のような状態になっている患者さんに遭遇することもまれにあります。
その原因として、日本では外国に比べて、ベンゾジアゼピン系が高用量、多剤併用、長期にわたり処方されることが多いことが挙げられます。
海外のガイドラインでは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の処方はをせいぜい4週間までであり(2週間までの国も多い)、それ以上長期に渡って投与するべきではないとされています。しかし、日本ではこのような短い期間で睡眠薬を中止することは少ないと考えられます。私自身も日常臨床で感じますが、患者さんに「薬でよく眠れるようになったから、引き続き睡眠薬を処方してほしい」と言われることが多くあります。
医療者側は、頼まれても長期には処方しない、適切な薬を必要なときだけ処方することを徹底し、患者様側でも睡眠薬に頼らないよう生活のリズムをつけることが求められています。
また、現在はベンゾジアゼピン系よりもさらに依存性の少ない薬剤(ラメルテオン、スボレキサント、レンボレキサント)が上市されていますので、すでにベンゾジアゼピン系睡眠薬が手放せない患者さんは、これらの依存性の少ない薬剤に少しずつ置き換えていくことがよいと考えられます。
<睡眠薬の代表的な種類>
①ベンゾジアゼピン系睡眠薬
脳内物質であるGABA(ギャバ)の受容体に作用し、不安や緊張を和らげ、筋肉の緊張を取り、眠りやすい体内環境にします。
②メラトニン受容体作動薬
体内時計を調節するホルモンであるメラトニンの受容体に作用して、眠気をもたらします。
例)ラメルテオン(ロゼレム®)
③オレキシン受容体拮抗薬
脳内の覚醒ホルモンであるオレキシンの作用を抑えて、眠気をもたらします。
例)スボレキサント(ベルソムラ®)、レンボレキサント(デエビゴ®)
厚生労働省が「健康づくりのための睡眠指針 ∼睡眠 12箇条」 なるものを作っており、興味深い内容になっていますので一度参考にしてみてください。
Q2, 体が睡眠薬になれてくると、睡眠薬の量を増やさないと睡眠薬が効かなくなる?
☞A,そもそも体が睡眠薬に慣れる という前提が間違っています。睡眠薬に慣れないようにすることが重要。
現在使用されている睡眠薬は安全性が高く、適切に処方された睡眠薬であれば、癖になってどんどん量を増やさないと寝れない ということはないと考えられます。ただ、ここでもキーワードは「適切に処方された」です。
やはり実際の患者様をみていると、「薬がないと眠れない」「やめようと思って睡眠薬を飲まなかったら、イライラや不安・焦燥感のせいで全然眠れなかった。」という方がいらっしゃいます(反跳性不眠 といいます)。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は多少なりとも依存性がありますので、できれば依存性の少ない薬剤(ラメルテオン、スボレキサント、レンボレキサント)をうまく使用しながら睡眠を調整していくことが重要になります。
Q3,睡眠薬を飲むと、ボケる?
☞A, そういう報告もあります。
そもそもベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳の働きを低下させることにより眠気を起こさせます。
睡眠薬を連用することで、睡眠薬の効果が日中に持ち越されて、昼間に眠気やだるさがひどい場合があり、これをぼけた と感じる方もおられると思います。
高齢では、睡眠薬の代謝、排泄が若者に比べて遅い特徴がありますので、なおさらこのように感じることが多いと思われます。
よく用いられているゾルピデムの血中濃度の半減期は、2時間ほどです。したがって、服用した後30分ほどで血中濃度は最高値に達し、その後2時間経つと1/2に、4時間経つと1/4に、6時間経つと1/8に、8時間経つと1/16に減少していきますので、若年者であれば夜に飲んだゾルピデムは朝には効果は消失していると考えてよいでしょう。ただし高齢者であれば睡眠薬の効果が残存している可能性は十分に考えられます。
ゾルピデムより半減期が長い薬剤も数多くありますので、そういった薬剤は薬が24時間、体内に残存し続ける可能性があります。
超短時間型(半減期が2~4時間程度) | ゾルピデム(マイスリー)、トリアゾラム(ハルシオン)、ゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ) |
短時間型(半減期が6~12時間程度) | ブロチゾラム(レンドルミン)、ロルメタゼパム(ロラメット、エバミール)、リルマザホン(リスミー) |
中時間型(半減期が12~24時間程度) | フルニトラゼパム(ロヒプノール、サイレース)、二トラゼパム(ベンザリン、ネルボン)、エスタゾラム(ユーロジン)、二メタゼパム(エリミン) |
長時間型(半減期が24時間以上) | クアゼパム(ドラール)、フルラゼパム(ダルメート、ベノジール)、ハロキサゾラム(ソメリン) |
Q4,寝られないときに、ちょっとならお酒を睡眠薬と一緒に飲んでも大丈夫? 寝るためにお酒を飲んでもいい?
アルコールは、飲んだ直後には眠くなりますが、眠りは浅いと言われています。またアルコールには抗利尿ホルモンを抑える、つまり利尿作用があることから夜中にトイレに目覚める原因となります。
一方で睡眠薬服用により、ふらつく、転倒する といった副作用も認められ、転倒による大腿骨頸部骨折は1.6倍に増加します。
アルコールと睡眠薬を併用することで、夜間トイレに起きたときにふらついて大腿骨を骨折する といったことがないようご注意ください。
Q5,なぜ高齢になると眠れなくなるの?
若い成人の睡眠時間は7時間程度であり、年齢とともに短くなり、65歳以上になると6時間程度となると報告されています。
これにはいくつかの理由があり、代表的な4つの理由を説明させていただきます。
①日中の活動量が減り、エネルギー消費も減るため、身体を休めるために必要な睡眠量が減少する。
②睡眠に関わるホルモンである「メラトニン」が減り、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
③夜間頻尿も高齢の方の睡眠を妨げる原因の一つです。男性では前立腺肥大症による夜間頻尿の可能性もあります。
④うつ病や睡眠時無呼吸症候群などの病気が隠れている場合もあります。
当院では、患者様が睡眠薬の副作用により不利益を被らないよう、依存性の少ない睡眠薬を最低の期間、最少量で処方することを心掛けております。
なお、御自身が不眠症かどうかわからない患者様は、一度下記のチェックシートで自分の状態を評価してみてください。
■参考文献
厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針 ∼睡眠 12箇条」
厚生労働省「高齢者への向精神薬処方に関する研究 」
Modern Physician 2014; 34: 653-656
エーザイ「眠りの状態チェックシート」
Ohayon. M. et al.:SLEEP, 2004, 27.1255-1273