身体の痛み、神経痛
目次
痛みとは?
一口に痛みといっても、原因や状態によってさまざまで、治療法が異なるため、痛みの種類を見分けることが大切です。
原因別では、
①からだに危険を伝える痛み(侵害受容性疼痛)
②神経の痛み(神経障害性疼痛)
③心理・社会的な要因によって起こる痛み に分けて考えられています。
侵害受容性疼痛とは?
ケガや火傷、打撲・骨折をした時などの痛みのことです。よくズキズキといった言葉で表現されます。ケガをするとその部分に痛みを起こす物質が発生します。この物質が末梢神経にある「侵害受容器」というところを刺激するため、「侵害受容性疼痛」と呼ばれています。
一部の頭痛や歯痛、関節リウマチや変形性関節症の痛みなどもこれに該当します。侵害受容性疼痛は重くズーンとした痛み方が特徴です。この痛みは、ほとんどの場合、急性で、一般的な鎮痛薬が効果を示します。
神経障害性疼痛とは?
ケガや病気など何らかの原因により神経が圧迫されたり障害されることによって起こる痛みのことです。よくビリビリ、ジンジン、チクチクといった言葉で表現されます。傷や炎症などが見えないにもかかわらず痛みがある場合には、神経が原因となっていることがあります。
40代以上に多く、日本では約660万人以上の患者さんがいると推定されています。
本邦で開発された神経障害性疼痛スクリーニング質問票は、7項目の質問に5段階評価(0~4点)で回答するもので、カットオフ値9点で神経障害性痛をスクリーニングできることが示されています。
症状がまったくなければ0点、非常に強くあれば4点として、1)~7)の項目に、0~4点の点数をつけてください。
その合計点数が、
12点以上☞神経障害性疼痛の可能性が極めて高い
9~11点☞神経障害性疼痛の可能性が高い
6~8点☞神経障害性疼痛の要素がある
どんな病気が神経障害性疼痛を起こすの?
神経障害性疼痛は、帯状疱疹の皮疹が治った後も続く帯状疱疹後神経痛、糖尿病の合併症としてあらわれる糖尿病性神経障害に伴う痛み、腰の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄による坐骨神経痛、脳卒中後疼痛、脊髄損傷後疼痛など、さまざまな病気が原因となります。
①坐骨神経痛
坐骨神経痛とは、病名ではなく症状を表わす言葉です。太ももや足の筋肉を支配している「坐骨神経」が圧迫されたり障害されることで、腰、お尻、足にあらわれる痛みやしびれのことを総称して「坐骨神経痛」と呼んでいます。
坐骨神経痛を起こす原因の主なものは、腰部脊柱管狭窄や腰椎椎間板ヘルニアがあります。
坐骨神経痛は中高年の方に多く見られ、お尻や太もも、すね、ふくらはぎ、脚にかけて、鋭い痛みやしびれるような痛み、ふくらはぎの張り、冷感や灼熱感、締めつけ感などの症状があらわれます。
こうした症状は、脚の一部分だけに強く感じることもあれば、脚全体に強く感じる場合もあります。
②頚椎症性神経根症 / 頚椎症性脊髄症に伴う痛み
くびの骨である「頚椎」に加齢による変性などが起こり、神経や脊髄が圧迫され、くびや肩などに痛みの症状があらわれたものです。頚椎の中心を通る脊髄からは両腕に向かって神経が伸びているため、それらの神経や脊髄が圧迫されると、くびや肩甲骨付近に痛みを感じたり、くび~肩~腕または指先にかけて痛みやしびれを生じることがあります。また、脊髄は腰から両足に向かって伸びる神経にもつながっているため、脊髄が圧迫されると両足に症状がでることもあります。
③帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹は、子どものときにかかった水ぼうそう(水痘)のウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)が、水ぼうそうが治癒した後も、脊髄近くの神経節と呼ばれる部分に潜み、疲れやストレスなどで身体の免疫力が低下したときに再び活性化することで、神経を通って皮膚に水疱ができます。日本人では5~6人に1人がかかるといわれています。
また、帯状疱疹の名前は、神経に沿って赤い斑点(疱疹)が皮膚に帯状にできることに由来しています。
帯状疱疹に関連する痛みには、皮疹(皮膚症状)が出現する前に起こる「前駆痛」、皮疹が出現しているときに起こる「急性帯状疱疹痛」、そして皮疹が治癒した後も続く「帯状疱疹後神経痛」があります。
前駆痛や急性帯状疱疹痛は、主に皮膚の炎症による痛み(侵害受容性疼痛)ですが、帯状疱疹後神経痛は神経が傷ついたことによる痛み(神経障害性疼痛)であり、この2つの痛みは発症のしくみも治療法も異なります。
④糖尿病性神経障害に伴う痛み
糖尿病性神経障害は、糖尿病の三大合併症(糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症)のひとつで、もっとも早期からあらわれます。痛みやしびれなどの自覚症状がある人は約15%程度といわれていますが、自覚症状がない人も含めると30~40%に見られます。糖尿病患者において頻度の高い合併症です。
初期は、主に脚の指や脚の裏に「ぴりぴり」「じんじん」といった痛みやしびれるような痛みが生じ、手指には症状は見られません。進行すると手指にも痛みやしびれるような痛みがあらわれるようになり、ちょうど手袋や靴下で覆われる部分に症状が見られるようになります。
さらに神経障害が進行すると、次第に神経は働きを失っていくため、痛みやしびれるような痛みではなく、感覚が鈍くなったり感じなくなったりします。すると脚に傷を負っても気づきにくく、そこから細菌に感染して細胞が壊死してしまい、切断を余儀なくされる可能性もあります。こうならないためにも、糖尿病の神経障害は早期に発見・治療するのが重要です。
⑤脳卒中後疼痛
脳卒中によって、脳が障害を受けたことで起こる痛みです。多くは、脳血管障害後、数ヵ月経ってから身体の半身の広い範囲に発症します。焼けるような痛みや拍動性の痛み、服が触れただけで痛みを感じるなどが特徴です。
神経障害性疼痛の治療はどうするの?
神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインでは、神経障害性疼痛に対し
- Ca2+チャネルα2δリガンド・・プレガバリン、ガバペンチン
- セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬・・デュロキセチン
- 三環系抗うつ薬・・アミトリプチリン、ノルトリプチリン、イミプラミン
の3種類が第一選択薬として挙げられています。
いずれの薬剤を使用しても、効果はすぐには現れません。効き目が現れるまでに1,2週間は必要ですし、慢性化してしまった痛みの治療にはさらに時間がかかります。ふらつきや眠気の副作用もあるため、基本的には少なめの量から開始し、徐々に量を増やしていくため、十分な効果があらわれるまでに時間がかかることが一般的です。
そして、痛いときにだけに服用するお薬でなく、一定期間服用を続けることで効き目を発揮するお薬です。
まずは現在の痛みが半分になるところを目指して治療に取り組んでいきましょう。
これらの薬剤を使用しても痛みの治療が効果不十分な場合に、
- 理学療法・・運動療法、温熱療法、電気療法など。筋肉をほぐすことで血流を改善し、結果痛みの軽減を目指す
- 神経ブロック療法・・局所麻酔薬を神経の周辺に注入し、痛みの情報が脳に伝えられるのをブロックする
- 外科的療法・・神経を圧迫している椎間板の除去など
などの治療法が考慮されます。
■参考文献
神経障害性疼痛診療ガイドブック 南山堂
慢性疼痛治療ガイドライン
神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版